ジャーナリストの下村健一さんが、障害者の職場を訪問し、インタビュー。
働く障害者と、雇用する担当者、実際の現場の様子を取材しました。

東京都青梅市と埼玉県所沢市を中心に医療、介護、リハビリ施設などを運営する医療法人社団・和風会。平成17年4月に初めて障害者を雇用したのをきっかけに、障害者就労支援機関と連携して、障害者に適した仕事の掘り起こし、採用、継続雇用のためのノウハウを研究。平成20年には法定雇用率をクリアし、現在は君成田隆志さんを含めて8人にまで雇用を拡大している。和風会で障害者雇用プロジェクトチームの責任者を務める黒田英寿さんは、障害者、雇用者、そして支援機関が「三位一体」となることが必要だと話す。

働く障害者 インタビュー動画

雇用担当者 インタビュー記事

お話を伺った方
黒田英寿(くろだ・ひでとし)さん
医療法人社団和風会 人事採用担当
多摩リハビリテーション学院事務長
同法人の障害者雇用プロジェクトチームの中心となって、障害者雇用を推し進めてきた人物。

 

初めての障害者雇用をきっかけにプロジェクトチームを立ち上げ

下村 平成17年3月の時点では、障害者雇用実績はゼロだったそうですね。それが現在では8名。障害者雇用を一気に拡大していかれた経緯を教えてください。

黒田 はい。それまではなかなか手が回らず、ようやく重い腰を上げたというのが正直なところでした。しかし平成17年4月に1名の方を採用したのをきっかけに、障害者の就労状況について“触覚”が張るようになりました。その人はきちんと毎日来ているのか、仕事はどのくらいできるのか、職場で困るようなことはないか……。和風会のなかで障害者に関する情報の共有や興味・関心が高まっていき、雇用プロジェクトチームを立ち上げることになったんです。

下村 プロジェクトチームを立ち上げて、まず取り組まれたことは?

黒田 まずは現状認識をしようということで、ハローワーク主宰の障害者雇用研究会に参加しました。そして講演された方のおひとりにご相談して、地元・西多摩地区で支援施設ネットワークづくりをしている会の方を紹介していただき、多摩リハビリテーション学院に見学に来ていただくことになったんです。

 

支援施設と連携しながら「就労イメージ」を構築

多摩リハビリテーション学院を見学に訪れた9名の支援事業者のなかに、多摩棕櫚亭協会の就業生活支援センター「オープナー」の人がいた。この出会いをきっかけに、和風会はオープナーと連携しながら、障害者雇用に取り組んでいくことになった。

下村 支援施設であるオープナーとは、どのような形で連携を進めていったのですか?

黒田 最初はオープナーでの就業支援・生活支援業況を見学させていただき、その作業風景を見て、和風会で働いていただくときの「就労イメージ」を構築していきました。

下村 まず、イメージすることが大切だと?

黒田 はい。我々の法人のいろいろな部署のなかで、どこが今、手薄なのか。そこから精神障害者が働く実際の場所を具体的にイメージしていかなければ、適材適所にはなっていきません。例えば、パソコンの入力作業が手薄だとしたら、パソコンの得意な人を探す。そこを見つけ出していかないと、なかなか実際の雇用にはつながらないのではないでしょうか。日頃、自分たちが行なっている仕事のなかで、「ここの部分は切り分けられるんじゃないか」というものは必ずあるはずです。

下村 和風会では、具体的にどんなふうに仕事の切り分けを考えていかれたのですか?

黒田 我々は医療法人ですから、医療技術者の集団です。その部分についての雇用は難しいのですが、技術者をバックヤードで補助する業務があり、それなら障害者の方にお願いできると思いました。それが皮切りでした。

下村 実際に障害者を採用してみて、メリットは生まれていますか?

黒田 はい。職員が専門の仕事に集中できるようになり、業務効率が高まりました。また、職員の残業や外注が減るという効果も生まれています。

 

採用後の最大のテーマは雇用の継続性・永続性

平成19年3月、和風会は2名の精神障害者を採用。そのうちのひとりが君成田さんだった。その後も雇用拡大は続き、現在は精神障害者6名、身体障害者2名、合わせて8名が和風会の施設で働いている。

下村 身体・精神・知的の3障害分野の中で、精神障害者の雇用が多くなっているのは、どういった理由からですか?

黒田 実際にさまざまな障害者を知り、具体的にどんな訓練を積んでいるのかを把握して、「これならいける」と思ったのが精神疾患の方だったんです。実は我々の施設の問題もあって、利用者の方や患者様がお使いになる施設に関しては、スロープを設けるなどの配慮がされていますが、バックヤードのほうはそうなっていません。その点で、現状では精神の方の雇用が一番近道でした。

下村 採用後も「オープナー」とは連絡を取り合っているのですか。

黒田 もちろんです。採用後の最大のテーマは、雇用させていただいた障害者の方の“継続性・永続性”です。長く働いていただくことが、雇われた側にとっても、雇用側の我々にとっても幸せにつながる。そのためには、本人と雇用側の業務責任者や管理者、そして支援機関の3者が「三位一体」となっていくことが最も大切だと思います。

下村 支援機関にお願いするのは、具体的にどんなことですか。

黒田 雇用した障害者に定期的に声かけをしていただくこと、SOSや相談を受けていただくこと、そして雇用側への情報提供とアドバイスです。担当者同士がお互いに携帯電話の番号を交換し合って、何かあったときにはいつでも連絡をとれるようにしています。我々は障害者への対応は専門外なので、支援機関との連絡が密なことは非常に心強いですね。

下村 和風会の方から「オープナー」に連絡をとるのは、例えばどんなときですか?

黒田 例えば、仕事を休んだときに体調はどうかをちょっと聞いてもらう。我々が直接聞いてもいいのでしょうが、聞き方にも技術が必要だと思うので、支援機関の方に聞いていただくと非常に助かります。

採用のミスマッチをなくす独自の「紹介シート」

和風会では障害者の採用を検討する際に、履歴書のほか、「紹介シート」(*1)を活用している。このシートは、和風会を含む複数の企業で構成する委員会と多摩棕櫚亭協会との連携でつくられた独自のもの。健康状態の項に「不調のサイン」「不調時の対応方法」などの欄を設けるなど、履歴書だけではわかりにくい、障害者の情報を記入してもらう。

参考資料
*1「紹介シート」introduction_sheet(右クリック→「リンク先を保存」してダウンロード)

下村 「紹介シート」をつくった目的は何ですか。

黒田 履歴書には表れない情報、とくに健康状態について、「今は状態はおさまっています」「薬は服用していて、きちんとコントロールできています」といったことを確認するためです。

下村 「なんとかこの子に働き口を見つけたい」という思いが強くある送り出す側は、ついついアピールするような情報に偏ってしまいませんか。

黒田 こちらは、具体的な業務内容まで出して採用の面接をしていますので、“アピール”では困るのは確かです。例えば「パソコンが得意」ということで採用したら、実際は「できるけれども、持続時間が短い」ということもあります。この最初の段階でミスマッチをなくしていくことが大事で、そのためにも「紹介シート」は有効だと思っています。正確な情報を提供していただくほうが、ミスマッチがなく、長く働いてもらえます。そのほうが、障害者自身の幸せにつながりますし、企業側の利益にもつながります。

「面接シート」でよりよい雇用状況をつくる

「紹介シート」が採用時のためのものなら、採用後の定期面接で活用されるのが「面接シート」(*2)だ。例えば「就業状況」として、通勤によるストレス状態の確認や、モチベーションを保つことができる業務量と内容の把握、変化への対応状況の把握、職場の人間関係の把握、職場のサポート体制の確認などの項目があり、面接での質問例と対応例も明記されている。

参考資料
*1「面接シート」
interview_sheet(右クリック→「リンク先を保存」してダウンロード)

下村 「面接シート」のほうは、どんな目的でつくったのですか?

黒田 これも多摩棕櫚亭協会と委員会とで立ち上げたもので、1年ごとに“振り返り”をするためのツールです。定期的に面接を行う際に活用しています。仕事内容や職場に希望することを聞き、本人に直していってほしいことなどを伝える、お互いに率直に話し合うためのツールです。

下村 家での様子や、家族との関係などに触れる項目もありますね。

黒田 はい。家庭環境は、採用のときにはあまり聞けない点ですが、実際に精神疾患の症状が再発したケースを見ると、家庭環境が大きく影響していることが多いのです。そこは我々もなかなかタッチができないので、支援機関に連絡して確認していただいていますが、この点を面接の際には、我々が直接、確認しています。

最終目標は「常勤」として65歳定年まで一緒に働いてもらうこと

下村 「紹介シート」と「面接シート」は、あらゆる業種で使えそうですね。

黒田 ほかの企業でも採用できるツールだと思います。

下村 障害者雇用に関しての最終的な目標は、どこに置いていますか?

黒田 みなさん、ずっと働きたいという希望をお持ちですし、企業側も、長く働いていただければ仕事のスキルも上がり、大きなメリットがあります。
今、和風会での雇用形態はパートタイマーですが、これは本人にも我々にも無理のないスタートの切り方だからです。当初は2時間の短時間労働から、徐々に本人の体調や生活サイクルに合わせて勤務時間を延ばしていく。そして、我々の最終的な目標は、本人もそうだと思いますが、常勤になること。常勤になって65歳の定年まで一緒に働けたらいいなと思います。それが「継続性・永続性」のゴールではないでしょうか。
障害者への技術教育の面で、今年、和風会は新しい展開をみせています。特別支援学校の東京都立青峰学園の福祉コースの学生に、ホームヘルパーの技術教育を提供しています。これは、我々が障害者を雇用することで見えてきた可能性を基にはじめた、障害者雇用促進のための教育です。青峰学園で技術を習得した学生を和風会が雇用する。そんな、次なる展開もあるかもしれません。

下村健一の編集後記

コミュニケーションの取り方に工夫や配慮を要するタイプの障害がある方を、持続的に雇用する際の具体的方策として、単なるセールス・ポイントの羅列に終わらない「紹介シート」や「面接シート」は、かなり有効だと感じました。しかも、職場事情等によって項目の立て方などに個別の改良を加えられる自由度が大きく、今後多彩に進化してゆけそうな仕組です。

前回の取材後記では、雇用された障害者の方が「申し訳ないような気持ち」を抱いてしまうのは、「採用枠がまだまだ限定的な現状では、とても正直な感覚」だろう、と書きました。しかし、この現状下でも、無用な申し訳なさなど感じずに気持ち良く働ける道があることを、今回、山中医師が示して下さいました。映像でも御紹介した、「《あなたが必要》っていうのを、きちんと言葉で伝える。それが一番大事だと思います。」という一言!
この山中医師のコメントには、実は続きがあります。「私達は、そういう《言葉にする》ことが苦手ですよね。夫が妻に愛を伝えることとか。でも、そういう言葉は大事なんです。」―――仰る通り。その苦手さを自覚して、意識的に敢えて言葉に出してゆくこと。周囲のそんな実践が、君成田さんの穏やかな自信に満ちた微笑みの源なんですね。

ところで、君成田さんのお弁当のエピソードが映像に出てきますが、実はあの時、私は同僚の皆さんに、こんな質問もしていました。「初めて皆さんと君成田さんが一緒にランチを食べた時の様子は?」 互いの緊張を解くアイス・ブレークは最初が肝心だったろう、と考えた私は、このランチにもATARIMAE化への小さな糸口があったのでは、と思ってこう尋ねたのですが、異口同音に返って来た答えは―――「覚えてないです。
これには、ハッとしました。初めて障害者の人を仲間に迎えた最初のランチのシーンが、特に記憶に残ることもない《普通》の時間だったということは、この職場が如何に身構えず自然体で彼を迎え入れたか、の証左です。

節目節目に万全の“特別扱い”シートを整え、仕事の評価はハッキリ言葉で伝え、雑談タイムは逆に全く特別扱いしない。このメリハリ有る周囲の対応の中で、君成田さんは今日も「終(つい)の職場」に通い続けます。

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