障がい者雇用事例/おおつかがゆく!

作業手順を教えるというより、「プロを育てる指導を」と伝えています

太平ビルサービス株式会社 
東京支店 総務課 障害者雇用担当
猪又 善司 さん

太平ビルサービス株式会社は、全国に約130拠点の営業網を持ち、業界のリーディングカンパニーとして清掃をはじめ設備管理や警備業務のほか、建物の運営維持に関する多彩なサービスを展開する企業です。
同社東京支店では2013年より障害者雇用を積極的に進め、現在59人のスタッフが活躍。どのように採用や育成に取り組まれてきたのか、担当者の総務課・猪又善司さんにお話を伺いました。

おおつか:猪又さんは、社内で障害者雇用を一手に任されていると伺いましたが、担当されるようになったきっかけは何ですか?
猪又さん:5年ほど前、私は清掃現場の責任者でした。その現場で特別支援学校の生徒2人を研修で受け入れたことがそもそもの始まりで…。障害者を受け入れる現場を検討する際、狩野正夫副社長が「猪又は発想が変わっているからうまくやれるかも」という判断で、私の現場で障害者の実習を行うよう指示したそうです。

おおつか:うまくやれましたか?
猪又さん:最初はそうでもなくて(笑)。「嫌です。どうしたらいいかわかりません、困ります」と断っていました。研修生2人のうち1人は言葉でのコミュニケーションが苦手な特性の生徒でした。しかも他社で研修を3回やって3回ともうまくいかなかったそうで。
おおつか:それで?

猪又さん:「そこをなんとか」と説得され、しぶしぶ研修を受け入れたんです。それがいまでは全社の障害者雇用担当になっている(笑)。


おおつか:その変化はどうしてでしょう?
猪又さん:工夫したらしっかり成果が出ましてね。「燃えるごみ」と「燃えないごみ」を集めるように伝えてもうまくできなかったんですが、ごみ箱に色のシールを貼って、「ピンクのシールの貼ってある箱のごみ」「ブルーのシールの貼ってある箱のごみ」と教えたらできたんです。これは面白い、はまったというんでしょうかね。

おおつか:一つひとつ工夫を重ねられたんですね。
猪又さん:仕事を切り出して、障害のあるスタッフの専用の仕事も作りました。各階のトイレにトイレットペーパーを出前する仕事とかね。
おおつか:出前?
猪又さん:はい。それまでは、各階のトイレ清掃を担当するスタッフたちは、自分たちでトイレットペーパーをカートに乗せて運搬していましたが、表を作って障害のあるスタッフに配達して歩いてもらったんです。
おおつか:どんな結果になりましたか?
猪又さん:清掃スタッフは従来のようにトイレと倉庫を何度も往復しなくて済むようになり、「助かるわ~」と高評価です。そんな工夫を続けながら障害のあるスタッフと一緒に働いていくうち、他のスタッフたちの表情も明るくなり、チームワークのよい、とても活気のある職場になっていきまして。

おおつか:うんうん。
猪又さん:「障害者雇用によって職場が変わった」「積極的に障害者雇用を進めると会社がよくなる」「こうやると障害者雇用はうまくいく」と社内改善提案に応募したところ、なんと2度も金賞をいただきまして。そして全社的に障害者雇用を推進せよということで障害者雇用担当に命ぜられたのです。

おおつか:「太平の絆」と名づけられた、障害者雇用の社内情報通信も素敵ですね。
猪又さん:ありがとうございます。定期的に発行しています。社内では、直接関わらない部署の社員たちにも自社の障害者雇用を知ってもらうことができ、効果的です。また特別支援学校や就労支援機関にも送っているのですが、取り組みを理解してもらえることによって、学校や支援機関からたくさんの応募者の推薦をいただけるようになりました。障害者雇用を始めた当時、「しっかり雇用できるようになれば、自分から何か働きかけをしなくても学校や支援機関から電話がかかってくるようになる」と言われましたが、そうだなあという感じです。

東京支店で発行している、障害者雇用の情報通信紙『太平の絆』。
第6号では、東京ビッグサイトの現場で活躍するスタッフの紹介記事が掲載されています。

 

こちらは、最新号の社内報『東京支店便り』。
東京支店で勤務している3名の障害者が、5月29日山手線徒歩一周研修に参加されるそうです。

猪又さんが現場責任者時代に採用した障害者スタッフのおひとり。田中さん。
現在は東京支社に配属。社内清掃を担当しています。

会議室のバキューム作業です。

ごみ収集です。

社員の皆さんの仕事を妨げないよう配慮しながら、素早くごみを集めます。

 

おおつか:現在の採用活動はどのように?
猪又さん:特別支援学校と中途採用の両方です。できるだけ実習を行って実際に働いてもらって、障害者も一般スタッフもお互い理解しあえるように。

おおつか:障害者スタッフを配置する際に注意されていることは?
猪又さん:障害者スタッフは1人ぼっちにしない。極力複数で配置するよう心がけています。一緒に働くスタッフも「障害者はこういうもの」と決めつけが生じにくくなりますし。

おおつか:周囲のスタッフの皆さんに伝えていることは?
猪又さん:注意はその場でしないと効果がないとか、指示は2つとか3つまとめてしないとか。あとは普通に接してほしいということくらいです。作業手順を教えるというより「仕事のプロなれるよう指導してほしい」と伝えています。

猪又さん:障害者スタッフの定着率の高いのは現場責任者がしっかり指導してくれている証拠で、今では「うちの現場にも紹介して」と言ってくれる責任者や「自分は同じ現場の障害者の○○さんを尊敬しています」と言う新入社員もおり、従業員一人一人、みんなが理解してくれる社内になりました。この事は、頑張っている障害者59名と現場の従業員の皆さんで作り上げたものであり、みんなが人材ではなく会社の【人財】だと思っています。そしてこれからも、沢山の【人財】を私達は育てていきたいと思っています。なによりも、副社長の理解や応援も大きく、感謝しています。

おおつか:これから障害者雇用に取り組む企業の方々に向けてアドバイスをお願いします。
猪又さん:いまの時代、採用がうまくいかないと悩む企業が多いですね。採用を成功させるには、場所を決めることだと思います。どこか1つの現場、現場でなければ自分の部署など、障害者スタッフを受け入れる「場」をまず1つ作る。そこで実習を行い、採用や育成のプロセスを進めていく。そうすれば納得のいく採用ができますし、そこをモデルに広げていけばいいと思います。

~おおつかのひとりごと~

「はじめて実習で受け入れた障害者のスタッフの指導には試行錯誤した。けれども、ああでもないこうでもないと工夫をしたら、きちんと戦力になった。現場も変わった。その障害者スタッフが配慮のあまり必要ない人だったら、障害者雇用の面白さはわからなかったかも」。“障害者雇用は面白い”と断言する猪又さんの言葉がとても印象的でした。

訪問先データ

会社名:太平ビルサービス株式会社
所在地:東京都新宿区北新宿2丁目21-1
従業員数:3,165人(うち障害者数59人)
取材現場:太平ビルサービス東京支店

http://taihei-tokyo.com/top.html

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