医薬品の安全性管理を仕事にしている大久保恵さんのオフィスに、キャスターなどを務め、多くの人の声を伝える伊藤聡子さんが訪問。女性ふたりは「届ける」という使命感を共通点に、照れ笑いしつつキャリアトーク!

 

二人のクロストーク

伊藤聡子さん(以下、伊藤):ロビーに製品がズラリと並んだコーナーをご案内いただきましたが、ものスゴい種類の薬を扱っていらっしゃるんですね。

大久保恵さん(以下、大久保):はい、皆さんにおなじみのモノもあったかと思いますが、私が担当しているのは市販薬でなく、病院で処方される薬なんです。だから、わりとひっそりと(笑)。

伊藤:ひっそりだなんて! 聞くところによると、何かとても難しいお仕事のようで、えーっと、安全性…?

大久保:はい、安全性管理部です。

伊藤:具体的にはどんなことをされているんですか?

大久保:薬が世の中に出る前に、「治験」と呼ばれる様々な臨床試験が行われるのですが、そこで発現した副作用の情報や、海外からの副作用の情報を集めて評価し、厚生労働省に報告を行っています。そんな仕事です。

伊藤:ということは、ものスゴく責任重大なわけですよね。

大久保:はい。でも、私を見ていると、そうは見えないですよねー(笑)。でも、責任重大です、本当に!

伊藤:本当に大久保さんの笑顔と笑い声には、最初から圧倒されっぱなしです。その笑顔とパワーでやっていらっしゃるお仕事ですが、そもそも製薬会社に就職しようと思ったきっかけは、何だったんでしょうか?

大久保:就職活動は大学3年の冬から始めたんですが、まず、私のような身体障害者でも受け入れてくれる会社はどこか、ということから調べ始めました。ただ、障害者採用をしている企業に絞ってアタックすると、活動も限られてきてしまうと思って、まずは大学で行われた企業説明会に参加。いろいろな企業から話を聞くようにしていました。製薬会社に就職することが第一希望だったんですが、それでも、できるだけ多くの企業の採用試験に挑戦しようと決めて、実際にいろいろな会社を受けまくりました。それで、落ちまくりでー(笑)。

伊藤:えーっ! 受けまくるだけでもスゴいですよ。私の場合、大学時代からフリーランスで仕事を始めたので、就職活動の経験がないんです。大久保さんは、結果として念願の製薬会社に受かって…。

大久保:製薬会社を希望したのは、やはり自分が子どもの頃から薬にお世話になっていたから。入退院の繰り返しで、退院してもいつも病院通いが続いて、自然に医療の世界に興味を持つようになったんです。

伊藤:ということは、学生時代はバリバリの理系?

大久保:いや、それが…、化学専攻ではあったんですが、高校時代は一番苦手な科目が数学で、二番目が化学というありさまで (笑)。

伊藤:そうは言っても、今こうして、私にはまるでわからない難しいお仕事をされているんですからね。苦手科目も必死で勉強されたんでしょう。

大久保:はい、勉強はやはり大変でした。一所懸命勉強して、苦手科目もなんとかカバーできるまでに克服して。

伊藤:病院通いの経験から、やはり薬が大久保さんにとってはとても身近なものだったわけですね。大久保さんのご病気の体幹機能障害というのは?

大久保:体幹機能障害と一言でいっても、とても広範囲なのですが、私の場合、もっとも顕著な症状は、骨がもろくて骨折しやすい、ということですね。成長するにしたがって、骨密度が上がってきて、骨が強くなってきたので、最近は行動範囲が広がりました。今は、長距離移動の時は車椅子を使っていますが、会社内では自分で歩いて移動しています。

伊藤:大久保さんのように、成長とともに良くなっていくことが多いのですか?

大久保:それは一人一人で違うと思いますが、私の場合、ちょうど高校生の時に、新しい薬が世に出て、その薬に助けられたという部分が大きいですね。

伊藤:なるほど。だからこそ、製薬会社に就職したいと。

大久保:そうなんですよ! 私のように薬を必要としている人が大勢いらっしゃるはずなので、少しでも医療や製薬の世界で役に立ちたいなと。それが仕事に対する私の最大の想いですね。うわーっ、こんなこと言っちゃうのが、一番恥ずかしいというか、照れくさいというか(笑)。

伊藤:いやいや、恥ずかしいなんて、とんでもない。薬の必要性、薬に助けられたという実体験があるからこその重たい言葉だと思いますよ。

大久保:ありがとうございます。

伊藤:ちょっとツラい記憶になってしまうかもしれませんが、子どもの頃は、骨折しやすいということで、やはり生活にも多くの制限があったのでしょうか? たとえば、お友達が走り回っていても、じっとしていなければならなかったとか…。

大久保:制限はいろいろありましたが、ずっと普通学級に通っていましたし、クラスメイトも、私が気をつけなければいけないことが多いことをわかってくれてたので、そんなに大きな支障はなかったですね。実は、学校で骨折したのは1回きり。家の中ですっ転んで、骨折したり…。自分の不注意というか、おっちょこちょいというか(笑)。

伊藤:でも、そんな大笑いして話してくださるけど、骨折って、本当に痛いじゃないですか! しかも、小さい頃ですから、泣きたいこともあったでしょ?

大久保:はい、そうですね。小学校1年生の時にも、骨折してしまって。骨折そのものも痛いんですが、骨が折れた部分を固定する器具と体がこすれた時の痛みも激しくて…。ベッドのシーツ交換の時は、体を持ち上げられるのですが、何だかそれが怖くて、泣いたことも覚えていますね。といっても、多くの人に支えてもらいましたし、今となっては入院生活も楽しい思い出ですね!

伊藤:あっ、またその笑顔! 本当にいい笑顔と笑い声。さっきも同僚の方との打ち合わせ風景を拝見しましたが、大久保さんの声が一番大きかったですよ。

大久保:えーっ、やっぱり! 私、声、大きいですか? 実は、小学生の頃からコントみたいなことをやって、人を笑わせることが好きでした。でも、芸人になりたかったわけではないですよ(笑)。

 

伊藤:そんな笑顔を絶やさない大久保さんですが、仕事を進める上で、やはり障害ゆえに困るようなことってありますか?

大久保:うーん。私が楽観的なこともありますが、これといって、ものスゴく苦労していることは特にないんですよね。社内はバリアフリー化されていますしね。弊社は障害のある社員も積極的に採用しているので、ちょっと手を貸してくれるなど、会社の人たちもごく自然。普通のことになっているんですね。それに、生まれた時から、私はこのままの自分しか知らないので、障害を障害と思わなくなっているようなところがあります。

伊藤:なるほど。さっき、同僚の方たちとの仕事も拝見していて、確かにとても自然な感じでした。それに、行き交う社員の皆さんが、とても伸び伸びとしていますよね。大久保さんも、その絶え間ない笑顔からすると、仕事へのやりがいとか、喜びとか、いろいろとあるんでしょうね。

大久保:やりがい、喜び、ですか? わーっ、じっくり考えようとすると難しいな。えーっと、ちゃんと答えられるかなー。伊藤さんはいかがですか?

伊藤:私ですか? やっぱり、いろいろな人にお会いできて、いろいろなお話をお聞きできることが大きいですね。人って一人一人違う人生を生きていて、一人一人が、その人にしかできない経験をしている。多くの方から貴重なお話をお聞きできる、というこの仕事には、本当に感謝しています。それで、けっこう私は「感動しい」なので、毎回毎回、お会いする方たちのお話やご経験に感動しまくってますね。

大久保:そうですよね。いろいろな人に会えて、いろいろなお話が聞けるというお仕事は、とてもうらやましく思います。

伊藤:だから、今日こうして大久保さんにお会いできて、今、とても感動しているんですよ!

大久保:そんなー(笑) 。

伊藤:私、大久保さんとお話していてわかってきたのは、大久保さんは、お薬を必要としている人のところに薬を届けて、私はキャスターとして、ニュースや情報を届けるという、その何かを「届ける」という意味では共通点がありますよね?

大久保:そうですね。さすがキャスターさん! 伝えたい人がいるからこそ、届けたい人があるからこそ、この仕事にやりがいを感じているっていうことは同じです。伊藤さん、うまい言い方ができて素敵!

伊藤:ありがとうございます。大久保さんは、薬の安全性管理という大きな責任を負うお仕事をされているわけですが、私の場合も、どんなニュースも情報も、私の伝え方しだいで、いろいろな意味にとらえられてしまうので、そこは責任重大だと感じています。いつも心がけているのは、歪みのないといいますか、正しい情報を的確にお伝えしなければならない、ということですね。それと、人によって考え方も様々なので、一方的な物言いにならないように気を付けています。あっ、大久保さんの仕事の喜びって? まだ聞いていませんでしたよね。

大久保:えーっと、給料日? ボーナス?…ってね(笑)。

伊藤:ほらまた、そうやって笑わせて、はぐらかそうとするー!

大久保:では、マジメに答えます! 製薬会社は、困っている人を薬で助けるわけですですし、私はこの会社で仕事をしていることを誇りに思っています。薬の安全性管理というのは、本当に責任の重い仕事ですし。だからこそ、いつもしっかりしていないといけないですし、会社でのチームワークも大切。今、私がその一員であること、新しい薬を世の中に誕生させるためのメンバーであることそのものが、喜びといえますね。

伊藤:薬の開発は日進月歩ですから、まだまだ大久保さんが担うことがたくさんありますよね。薬の安全性管理というお仕事で、大久保さんが達成しようと思っている目標って何でしょうか?

大久保:「こんな薬がほしい」「こんなことに効き目があれば嬉しい」と待ち望まれ、すでに開発はされているものの、まだ世に出せない薬がたくさんあります。治験が済んで、副作用に関するデータを解析して、より良い薬にするための仕事が私たちの担う部分ですが、一つ一つの薬が、それを必要としている患者さんのところに届くまでを見届けていくこと。その数をできるだけ増やせるようにすることが私の使命だと思っていますね。

伊藤:なるほど! 全然違う仕事でも、私にとっても勉強になるお話です。私も、人を惑わせないように、より的確で正しい情報を届けられるキャスターになるべくがんばります。

大久保:それと、自分が学生の頃に出た新薬のおかげで症状が良くなり、助けられたわけですが、もっと早く出ていたら…という気持ちもあるんです。なので今、小児を対象とした新薬の開発に精力的に取り組んでいます。

伊藤:早くに世の中に出すことができれば、それだけ早く救われる人もいるわけですもんね。最後に、障害のあるほかの方に伝えたいことって、ありますでしょうか?

大久保:そうですね。障害があると、仕事を選ぶにあたって、確かに様々な制限はあります。でも、私の場合、両親がそれを感じさせないように、それでもめげずに前に進んでいけるよう、私の心をきたえてくれたことに感謝しています。だから、就職活動でも多くの企業にアタックしました。落ちた会社も多数ありますが、それでへこんでないで、さぁ、次の会社に挑戦だと突き進んでいきました。私が、この会社、今の仕事と縁があったように、世の中は一人一人が持っている力を絶対に必要としています。だから、障害をダメージとばかり思わないで、やりたいことにトライしてほしいと思います。

伊藤:本当に、最後まで力強い! その笑顔が、いつも職場を明るくしていることは間違いないですね。

大久保:元気と明るさがとりえだと自覚しています。それも、いつも一緒にがんばれる仲間がいるからこそですね。これからもますます笑顔で張り切っていこうと思います。

■幼い頃の夢は?
 大久保さん マンガ家かイラストレーター
 伊藤さん 歯医者さん。きれいな女医さんに看てもらって憧れていました

■リスペクトしてる人は?
 大久保さん 職場のチームリーダーの豊田浩子さんと両親。それと「BUMP OF CHICKEN」のボーカルギターの藤原基央さん
 伊藤さん 緒方貞子さん。優しさと強さ、両方を兼ね備えた女性ですね

■好きな言葉は?
 大久保さん 「大丈夫!」。落ち込んだ時、自分に言い聞かせて、奮い立たせています
 伊藤さん 「感謝」。あたりまえのことにありがたさを感じて、1日1日を生きたいです

■趣味は?
 大久保さん 旅行、インテリアのコーディネイト、ライブに行くこと
 伊藤さん ダイビング、旅行、読書

■初めての給料、どう使った?
 大久保さん 一人暮らしを始めるための家財道具を買いました
 伊藤さん 初めてのギャランティは8万円で生活費に。新潟の両親に「仕送りはいらないよ」と電話しました

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